よるのむこうに
顔が熱くなり、恥ずかしさで何も考えられなかった。
「……だ、だから開けるなって言ったのに……!」
「……お前さあ、……何かあったら電話しろって言っただろ。……なんなの」
天馬は低くそう呟くと、私の傍まで歩いてきて私を抱き上げた。
「やめて、自分でできるからっ……」
「できねーから泣いてんだろ」
天馬の声は感情を抑えてはいたけれど、おさえ切れない怒りが滲(にじ)んでいた。
彼はそのまま私を浴室に運ぶと、私の体を浴槽の中に横たえて、手荒なやり方で私を洗い始めた。
私は泣き出したいのをこらえてうつむいて唇を噛んでいた。
「足は。……洗えないからちょっと開け」
「自分でやる……」
「うるせーな、変なことしねエからさっさと開け」
天馬が怒っている。それはわかっていたが私だって羞恥をこらえ切れなかった。
私の足にかかる天馬の大きな手を手で押さえた。
「やだって言ってるでしょ……!あんたなんかに見られたくない!時間がかかっても、痛くても自分でやる、出て行って!」
天馬の瞳が私を捉えた。
奥二重で、普段は眠そうな目が大きく見開かれ、怒りと屈辱でぎらぎらと光っていた。
彼は彼の手を拒む私の手首をつかみあげた。泡の浮いた湯が飛び散って彼のジーンズを濡らした。
「……俺はお前のなんなんだよ!いまさら壁つくってんじゃねえよ!」