よるのむこうに
「汚いからってお前を放り出したら、俺はどうなるんだよ!
それをやってしまったら、お前が他の男を作って好き勝手暮らしても俺は指をくわえてみてるしかなくなるだろ!
俺はお前の男だ。一生ずっとお前の男だ。他の男なんか近寄らせねえ」
私は眉間に皺を寄せた。
「なにそれ……私が元気なうちは、見向きもしなかったくせに……」
「……そうだな。お前がずっと俺を見てたからな。
でも今のお前は俺なんか全く見てねえだろ。リウマチ、リウマチ。そればっかだ。
……情けねえけど……今のお前の気持ちには、俺が入り込む隙間は少しもねえ。
結局今までの俺はお前のオモチャだったんだよ。ヌイグルミと何も変わらねえ……。
そりゃこっちもなりふりかまってられねーわ……」
私は言葉を失った。
私達の関係はいつだって私が追いかける側だった。しかも、私が天馬の容姿に一目ぼれする形ではじまった関係だ。
天馬がもてあましている時間を少し貰うだけ。
覚悟なんかどこにもなかった。天馬の一生を受け止めるほどの「つもり」もなければ自分の一生を預けるつもりもなかった。
ただ、少しの間だけ一緒にいたい。
知らない土地に住んで、疲れきって帰る家にこの人がいてくれればいい。弱った私を見せる予定もなければ余裕をなくして当り散らすほど依存するつもりもなかったのだ。
天馬だって私のそういう「つもり」はわかってくれていると思っていた。