よるのむこうに

それなのにリウマチが容赦なく私の「つもり」を薙ぎ倒して、私どころか、天馬までめちゃくちゃにしようとしていた。


どうしよう、どうやって解決したらいい。


答える声はない。
誰も助けてはくれないのだ。

医師は私の体を病から守ろうとしてくれている。けれど私達の関係は誰も守れない。
落ち着くところに落ち着いて、それなりに温かだった私達の関係は泥のような愛憎の中に沈みこんで、もはや互いの力ではどうにもコントロールできなくなっている。ただただ、病に翻弄されるばかり。
私達は互いの手を離していいのかいけないのか、それすらもわからなくなっている。


浴槽の縁から湯があふれ、白い雪のような泡が排水口に吸い込まれていく。


「天馬」
「……悪い、」


彼は私の手を離した。強い力でつかまれていた私の手首には天馬の指のあとが赤く残っていた。
真夏にシャワーを出しっぱなしにしたので天馬の髪は汗と湯気でぐっしょりと濡れて水滴を滴らせている。


「天馬、ごめんね」


私のために死ぬまで尽くして。そんなむごいことが言えるほど私は天馬を愛してはいない。ただ、好きだっただけ。一緒にいるのが楽しかっただけ。


でも、今は、辛い。
24歳の男の子の背中に背負われることがこんなに心の痛むものだとは想像もしなかった。リウマチの辛いのは体の痛みだけじゃない。私たちの人間関係も、変質させてしまう。


「謝られても嬉しくねぇよ」
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