よるのむこうに
12、料理男子
天馬は今日も仕事だ。
貸したお金を効率よく回収するためなのか、それとも天馬をスターにでもしたいのか、彰久君はとってくる仕事の多くを天馬に回した。
よく考えればありがたい配慮にはちがいないのだが、天馬はたびたび家を空けなければいけないことに不満を抱えていた。
そして不満を抱えた瞬間すぐに彰久君に仕事の量について文句を言い、私が事態を把握したときにはすでに彼は彰久君に論破されていた。
天馬は働いた経験がほとんどないので仕事というものがそう都合よくこちらを待ってくれるものではないということをここにきてはじめて経験したのだろう。
「おい、仕事行くぞ」
天馬はそう言って寝室をのぞいたが、今日の私は襖(ふすま)に背を向けて動かない。
私は天馬に見つからないよう薄目で彼の様子を窺(うかが)った。
昨夜は暑かったせいか、天馬の上半身は裸で、下はスウェットをはいているだけだ。
さすがモデル。だらしない格好をしていてもそれなりに決まっているので、こちらはなんだかうらやましいようなずるいような、そんな気もちになる。
「おい」
いつもの私なら洗濯機を回しながら朝ご飯でも作っている時刻なのだが、私は断固とした意志を持って動かない。