よるのむこうに
私を一人にしたくないという天馬の気持ちはありがたいが、しかし天馬の職場に私がついていくというのはどう考えてもおかしい。
天馬は仕事に集中できないだろうし、周囲のスタッフもあの女はなんだろうと思って居るに違いない。
そして何より私がいたたまれないのだ。
前回はたまたま彰久君が現場にいてくれたが、そうでなかったら私はどれほど居づらい思いをしなければならなかっただろうか。想像するだけでいやな気持ちになる。
「なんだよ、眠いのか」
彼は繊細さとはかけ離れた妙にうるさい動きで部屋に入ってくると私のベッドに腰掛けた。ベッドが彼の体重でぐっと沈む。が、私は寝たふりを続けている。
「……」
「しょうがねえな……」
天馬は小さく呟くと、そのまま立ち上がってリビングに出て行った。私はほっと息をついた。
眠ったフリなんて学生時代以来だ。いい年をしてこんな事をしなくちゃならないのは情けない。
しばらくして天馬はTシャツにデニムパンツというシンプル極まりない姿で襖を開け、そして先ほどと同じようにずかずかと部屋に入ってきて、そっと私の頭に手を置いた。
「速攻で帰ってくるから、小便以外で動くなよ」
小便……。その語彙の飾らなさ、品の悪さにはもう慣れたつもりだったけれど、やはりかすかなショックを感じてしまう。女子に向かって小便って。学生ならばともかくそんな事を言う社会人は見たことがない。
若干引いていると、天馬の手が肌がけ布団の中にもぐりこんできた。
「クソ……」
よほど仕事に行きたくないのか、天馬の声音ははっきりとわかるほど苛立っている。
その時、私はTシャツの中に天馬の手が滑り込んでくるのを感じた。