よるのむこうに
「医療費の補助がでますので、実質は入院費含めてこれくらいでしょうかね」
わざわざ私のために作成された明細にはまだプリンターの温度が残っていた。
突然容態が悪くなったのではないが、私の医師は最新の治療薬、生物学的製剤というやつを試したいらしい。
三日の入院で100万弱、か……。
私は事務員さんが説明してくれた入院費用の明細を見つめた。
整形外科の待合は相変わらず朝から混雑していて、人の話し声や足音、テレビの音などであふれかえっていたけれど、不思議とそれらは少しも私の耳に響いては来ず、事務員さんの説明がミニの中で大きくこだましていた。
100万円は私にとって、子どものころに感じていたほどの大金ではなくなっていた。そして私は旅行に行くでなしブランドに興味があるわけでなし、道楽といえば天馬の存在くらいなものだが、その天馬もヒモというほどコストのかかる存在ではなく、自称パチプロというだけあって一応自分の小遣いくらいは稼ぐ男なので休職中とは言え私の手元にはまだ貯金は残っていた。
私の場合、幸いなことに医療費はまだそれほど大きな問題ではなかった。
ただ、、薬を使えばそれだけ副作用は起こるだろう。すでに胃痛は慢性的に起きるようになっているし、顔もわずかだけれどむくんでいる。
新薬を使った場合、自分はどうなるのだろうか。
私の飲んでいる薬はやはり強い薬には違いなく、飲み忘れたり飲みすぎたりしたら必ず病院に連絡を入れるようにと何度も言い聞かされている。
新しい治療法に挑戦するのが怖かった。
けれど、医師はこの薬を試すならなるべく発症二年以内がいいと言う。
投薬も私は寝ているだけで手術が必要なわけではない。けれど、医師は何かあったときのために投薬中の私についていたいという。その申し出で私は一気に恐怖心にとらわれてしまった。