よるのむこうに



「衣装って……これだけ?」

天馬の場合、モデルという職業柄、仕事のときはいつも控え室やスタジオにに所狭しと衣装がかかっている。
しかし今日は少し様子が違った。

今日、彼のために用意されていたのはさっぱりとした青年らしいデニムパンツとTシャツだけだった。いかにも一般の若い人が着ていそうな個性のない服だ。

私は少し落胆してしまった。

もともと天馬の仕事についてくるのはあまり好きではない私だけれど、唯一、天馬がさまざまな衣装を着ている姿を眺めているのは好きだった。
きらびやかな天馬、怖いくらいに野生的な天馬。普段見ることのない天馬の姿はやはりきれいで、彼を見慣れている私でもつい目を奪われてしまう。

しかし、今日はどうもいつもと様子が違うようだった。

彰久君は少し落胆した様子の私を見て笑った。


「今日は雑誌の撮影じゃなくてバスケット特集だからね」

「バスケ……?そういう番組なの」

モデルなのに、タレントみたいな仕事だな。そう思ったけれど、最近は人気モデル出身のタレントや俳優も少なくない。彰久君は天馬をそういった方面に進めていこうと思っているのだろうか。

彰久君は何を考えているのか顔には少しも出さず、話を進めた。


「もともとはそれがメインの番組ではないんだけど、NBAってわかる?」

「なんとなく……。アメリカのバスケットボールチーム、かな」

「北米とカナダの30チームで構成されるプロバスケットボールリーグのことだよ。
今日はそこから選手がくる。
日本からアメリカのプロバスケリーグにいって活躍している有名選手って言ったら知ってるかな。樋川亮輔。」

「ごめん……バスケのことはあまり知らなくて」

ものすごい有名選手なのだろうか、彰久君は大きな目を見開いたけれど、すぐに気を取り直して説明してくれた。

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