よるのむこうに
14、羽音

胃が痛い。

リウマチの薬で胃が荒れているだけではない。これは明らかにストレスが原因だ。


私は向き合った樋川選手と天馬を交互に見比べた。双方とも身長は190を越えているのでどちらも体格はいいけれど、モデルの天馬よりもプロのスポーツ選手である樋川選手のほうが体はがっちりとしている。

「1on1、やろう」

樋川選手が突然そんなことを言い出した。
それを聞いた天馬はあからさまにいやな顔をして彼をにらみ、彰久君はこうなることを知っていたのか予測していたのか、顔色も変えなかった。

「プロ相手にできるわけねえだろ。俺はもうバスケはやってない」

「こっちは天馬が1ON1やるっていうから13時間のフライトを我慢して日本に帰ってきたんだ」


樋川選手のその言葉に周囲のスタッフの雰囲気が緊張する。

「そんなのこっちに関係ねえよ」

「怖いのか?じゃあハンデをつけよう」


樋川選手はスポーツマンらしい爽やかな笑顔を崩すことなくそう言った。
プライドが高く負けん気も強い天馬が『ハンデ』というものを親切と受け取るのかあるいは侮辱と取るのか、彼を知っている人間なら大体わかるだろうに。

天馬のすぐそばにたっていた私には天馬がきつく奥歯を噛みしめた音を聞いた気がした。
視線を落とすと、天馬のこぶしが震えているのが視界に入った。

駄目だ。乱闘になる。
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