よるのむこうに
撮影用に借りた公園の周りにロープが張られた。
平日の昼間だというのにそこにテレビカメラがあるというだけで人が集まってくる。
撮影中と書いた立て看板を公園の入り口に置いているので公園の中までは誰も入ってこない。皆一様に首を伸ばしてこちらを見ている。
「座ってれば?」
彰久君は組み立て式のパイプ椅子を一脚、私のために運んでくると自分は私の隣に陣取った。
「ねえ、彰久君。知ってると思うけど天馬って結構勝負事にはムキになるほうだよ。
しょっちゅうパチンコで大負けして痛い目にあっても痛い目にあえばあうほど余計に熱中するってタイプなんだけど。……大丈夫かな」
彼は少し身をかがめて私の顔を覗き込んだ。彼が動くとシトラスとグリーンノートのまじりあった優しい香りが漂う。
「大丈夫ってどういう意味で?」
甘い笑みを向けられると一瞬言葉を忘れてしまう。
私は慌てて気を取り直してストレッチをしている天馬に目をやった。
「だから……樋川選手はプロ選手でしょ、だから……バスケじゃ歯が立たなくて最終的に手が出る、とか」
私はそう言いながら、自分の手を拳にしてぶん、と振った。
彰久君は笑い出した。
「もともとバスケは接触の多いスポーツだ。天馬みたいな細っこい選手にブン殴られてるようじゃでかくて重い選手ばかりのアメリカではやっていけないよ」
「そういう問題じゃないよね、相手にダメージがあってもなくても殴ったら普通に警察呼ばれちゃうよ?」
彰久君は肩をすくめた。
「あいつもそこまで堕ちてはいないよ、たぶんね。
女の子の前で暴力を振るうような真似はさすがにしないよ。そんなことをしたら女の子に嫌われるってさすがのあいつもわかってるだろ」