よるのむこうに


すでに天馬が一点先取しているが、樋川選手にボールが渡った途端にその大きな背中と足腰の粘りで天馬はなかなかボールに触れない。
樋川選手はその大きな体から想像がつかないほど軽やかにボールを操り、ゴールしたのシュートだけでなく遠くからも確実にシュートをきめる。そのフォームの美しさは熟練の技術を感じさせた。

樋川選手はさすがにプロのバスケットボール選手なので天馬はおされ気味だ。
けれど、二人とも同じくらい目がぎらぎらしている。双方、強い戦意をその瞳に宿したまま対峙している。

たぶん、これは局側の撮りたかった心温まる映像にはならないかもしれないけれど、彼らの想像を超えたやりとりは見ているこちらの胸が自然と高鳴る魅力があった。

私の知らない世界。
そして私の知らない世界にこそ天馬の本気があったのだ。

パチンコはプロを自称しながら負けていることのほうが多いし。
日本の首相が誰かも知らないし。
モデルの仕事はどうみたって生まれ持った資質だけでこなすやっつけ仕事だし。

天馬が何か努力をしている姿は見た事がない。
モデルを足がかりにスターになってやろうなんて野心もない。
欲がないのはいい面もあるけれど、悪い面もある。

天馬は何に関してもやる気がない。そもそも彼は努力というものを学ぶ機会もなく社会に出てしまったのではないだろうか。
私は勝手に天馬のことをそういう人だと思っていた。


けれど、そうじゃない。

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