よるのむこうに

天馬が樋川選手の一瞬の隙をついてボールを奪った。

そのままドリブルで樋川選手と距離をとる。一瞬にして加速し、慣性の法則が通用しないかのように突然止まる。大型の猫のようにしなやかに、飛び上がる。その高さは見上げるほどで、おそらく私の首の高さくらいにまで足が来ていただろう。
天馬はそのまま空を走るように足を動かし、大きな音を立ててゴールにボールを叩き込んだ。


これは、私でも知っている。
ダンクシュートだ。
その興奮と負けん気に彩られた彼の双眸の強さと美しさに、私はため息すらつけなかった。



天馬は努力を知らないのではない。ただだらしないだけの人間でもない。
彼が本気で取り組めるのは今も昔もバスケだけなのだ。

モデルをやっている彼を美しいと何度か思ったことのある私だけれど、今の天馬はそんな造形の美しさを越えた輝きを持って私を魅了した。

私は、言葉も出なくなるほど天馬という人間に魅了された。
樋川選手に挑み、ボールを奪おうとする天馬はそれほど人の気持ちを引き込む美しさを持っていた。
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