よるのむこうに
私は腹の中で天馬を罵った。
普段仕事もしないでぶらぶらしているのだからせめて荷物運び位はしろよ。
いや、買い物自体ほとんどが天馬の食べるものなのだ。
私一人で食品を消費するのならこんなに食料品を買い込む必要なんかないのだ。
ヤツが家に食費の一つも入れない件に関してはもう言うまい。
今の若者が無職であるというのと、私の年代が無職というのは言葉こそ同じだが、その原因も性質も違う。だから金銭的なことはいろいろ事情もあるだろうから目をつぶろう。
だが、荷物運びくらいやれ!!とくに牛乳!!毎日浴びるように牛乳を飲むのはいいが、せめて運んでくれ。こっちはもうアラサーなんだ。気合で運べる牛乳の数には限りがある。
スーツのジャケットの中は汗まみれだ。私はふうふうと息を吐きながら商店街を家に向かって歩いていく。
そして、派手なネオンが瞬(またた)く店の前で足を止めた。
嫌な予感がする。
まさかと思いつつも、私は煙草の匂いが漂う店の入り口の前から中を窺った。
店の中は混雑していたが、おそらく身長190センチを越えているであろう天馬の姿はすぐに見つかった。
朝から教師として教壇に立ち、自分の10倍は元気な高校生を追いまわし、小テストの問題を作ってやっと帰途に着いた私が!
閉店間際のスーパーに駆け込んで必死で特売の牛乳を買い込んでいるその間に!!
お前は私との約束をすっかり忘れてパチンコか!!
「あー忘れてたわ、悪ぃ」
片手にパチンコの景品を抱えた天馬は、さほど悪いとも思っていなさそうな顔で店から出てきた。
どのくらい店にいたのか、彼の整った顔には疲れの影が見える。