よるのむこうに


バスケなんてボールとゴールがあればどこでもできる。

現に天馬は公園でプレイしていた。彼の言うとおり、バスケだけならばどこでもできる。

けれど、あの時と樋川選手との1ON1は明らかに天馬の顔つきが違った。身のこなしが違った。普段見ている天馬と同じ人間だとは思えないほど違ったのだ。まるで夜空を横切る彗星のように、燃え上がる輝きをまとっていたのだ。

あの天馬の輝きは、樋川選手の高い実力が引き出したのだと思う。樋川選手はプロのバスケットボール選手だ。それだけの相手と対峙しないと引き出せない強い輝きだ。
現在バスケとはかけ離れたモデルの世界に身を置いている天馬にとって、あれだけの選手とぶつかる機会はもうないに等しい。
プレイヤーとしてのキャリアはないに等しい彼が、いまさらプロの世界に戻ることができるとも思えない。

「バスケ、嫌いになったの?あんなにうまいのに」

天馬はうつむいて笑った。


「バァカ。逆だよ、逆」
「逆……」

私は思わず首をかしげた。

バスケが天馬を嫌う。
バスケが、天馬を?


わけがわからないまま、しかし私は問いただすことはせずに彼の次の言葉を待った。

「面白い話なんか何もねえぞ。長ぇし」

天馬はそう前置きをして自分の中で言葉を探しているようだった。もともと無口で、語彙が少ないからなかなか言葉が出てこない。
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