よるのむこうに


「バスケは五人でやる球技だ。

中学出たてのころの俺は、どうしてコートの中に五人出てこなきゃならないのか分からなかった。
俺は目が良くて体も大きかったから一人で何度でも得点できた。得点できるヤツが一人いれば他の四人はいらないと思ってた。チームプレイの名の下に、できねえヤツに俺があわせるのは馬鹿馬鹿しいって考えだった。
だから、バスケの選手なら誰だってわかっているチームプレイの意味がいつまでたってもわからなかったんだと思う」

「うん」

「高校にはスポーツ推薦でバスケの強豪校に入った。
俺はバスケバカだったから……これだっけ?フレミング。そういうのもわからなかったから、まともに受験なんかしてたら行ける高校なんてなかった」

天馬は苦笑しながら右手を出し、親指、人差し指、中指を突き出した。

中学校の理科で習う、フレミングの法則を言っているのだろう。……手が逆だ。正確にはフレミング左手の法則は左手を使う。
これ一つだけで受験の結果が大きく変わるわけではないが、一事が万事この調子では彼の言うとおり高校受験は少し厳しいかもしれない。

「俺みたいなバカが入試もパス、学費も免除で高校に入る条件はバスケをすること。バスケで勝つこと。それしかなかった。高校時代の俺はバスケをやることしか求められてなかった。楽勝じゃん、ってそのころは思ってた。ちょっと考えりゃそれがどういうことかわかるだろうに、バカはわかんねぇんだよな……」

一般的な高校入試を経ずに高校生になってしまったことを後悔しているのだろうか。
商店街の明かりを見下ろしながらぽつぽつと話をしてくれる天馬は、どこか苦い表情を浮かべていた。

「バスケはコートの中に五人しか入れないスポーツだ。

俺は一年からスタメンだった。
二年や三年がはいるべき枠が俺のためにあけられているのを当然だと思ってた。
他の連中のプレイを見て何やってるんだって思ってたし、口にも態度にも出てた……だろうな。
できないやつをお情けでコートに入れたって足手まといだって本気で思ってた。

できないならできないなりにもっと練習しろよって思うのに、すぐへばってたな。そういうのも含めて馬鹿にしてたわ」

当時の天馬は今よりももっと尖ってたんだろうな。容易に想像できる天真の若かりし頃の様子に、私は思わず苦笑を漏らしてしまった。

「やな後輩だね」

「ああ。……でも樋川は、そんな俺をチームメイトに馴染ませようと一人で頑張ってた。
あいつは部長だったからコーチから何か言われてたのかもな。
でもまあ……コートを出ればできねえ奴でもいい奴はいる。構われて悪い気はしなかった。ウザかったけど」

「なんだそれ」

でも天馬らしい。その様子が目に浮かぶようだった。
< 202 / 269 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop