よるのむこうに
「ニューヨークにオーディションを受けに行きたい」
「うん、いってらっしゃい」
「本当は、今までみたいにお前も連れて行きたい。でもさ、さすがにニューヨークは遠すぎる」
「うん、渡航費もバカにならないしね」
私は天馬のマネージャーでも付き人でもない。アメリカまでついていくとなれば渡航費は当然自腹に決まっていた。
「……待てるか?一週間」
「何いってるの。今だって何でもできてるでしょ。むしろ私が天馬の世話をしてるくらい。
紹介したことはなかったけど友達もいるし、もし天馬が一週間家をあけるなら、母にきてもらうのも良いな……。うちの母、東京に来たことないんだ」
「そっか……。親がきてくれるなら安心だな」
「うん、薬も効いてるし、前みたいなことにはならないと思う」
「……頼りにならねぇ男で、悪ぃな。そのうち仕事を選ぶ側になってやるから。
……待ってろよ」
なぜ天馬が謝るのだろう。
私はひどく悲しい気持ちになった。
「私の心配なんてしなくて良いのに」
選ぶ側になりたいのは私のためだ。
ここ数ヶ月で天馬の生活は大きく変わった。気まぐれな暮らしをやめて、私のことばかり考えている。やりたくもない仕事も受けざるをえない。
以前の自称パチプロ生活が今よりいい暮らしだったとは決して言えないけれど、それでも今のほうがましだと思えない私が居るのだ。
私を気遣うあまりに彼の行動が制限されるのを、このまま私は見ていなくてはいけないのだろうか。