よるのむこうに
「何がバスケだ、それで食っていけんのかよ!
プロになって、それでその先はどうなる。
高校出たての18歳ならともかく俺の年を考えろよ。何の実績もない24歳がいきなりはじめても現役でいられる時間なんてたかがしれてんだろ、俺の家族はどうなるんだよ」
それはもちろん私に向けられた言葉ではなかった。
でも、わかってはいても胸に突き刺さった。
天馬の話している相手が誰なのか、持ち込まれた話が何を意味するのか。詳しくはわからなかったけれど、私はすでに天馬がどんな顔をしてバスケをするのか、それを知ってしまっている。
樋川選手と天馬が1on1をした映像が放送されて以降、天馬にかかってくる電話が増えた気がする。
「そういう話は高校生相手にしてくれ。……もう、かけてくんな」
天馬は私の存在を思い出したのだろう、声を抑えて電話の相手にそう言った。
生活なら私が支える。だから、バスケをしているあなたが見たい。
少し前の私ならそう言っていただろう。今だって言えるものならそう言いたかった。
けれど今後どうなるかわからない私がいくらそう言ったところで、それは空しく響くだろう。
私の存在が誰かの重石(おもし)になって、その人の人生を沈めていく。
私は今、自分の命の重さをもって全力で彼を押しつぶしている。
罪悪感で窒息しそうだった。