よるのむこうに
16、道をたがえて
ショーケースを拭きながら、私は小さくため息をついた。
兄嫁さんがまた実家に帰っている。
兄嫁さんの実家は店から車で30分ほどの距離なので何もなくても頻繁に帰れる場所だ。
だからいつ帰ったって彼女の自由だとは思うのだけれど、何もないときに彼女が店を放り出して実家に行くことはほとんどないのできっと何かがあったのだろうと思う。
明らかに何かあった雰囲気の両親と兄に対して、私からは何も聞かない、というか聞けない。
けれど兄嫁さんが何を不満に思っているのかは察している。
基本的には兄嫁の帰省(?)は兄夫婦のことなので私に口を挟む権利はないし両親もみんなそう思っているから私はいつだって細かい事情については蚊帳の外だ。だから私は実家になにかあるといつも突然実家に呼ばれて、兄嫁がいないぶん滞ってしまう仕事を頼まれる。
実家に帰ってこの雰囲気を察知した私は病状が落ち着くとすぐに実家の近くの安アパートを借りて出て行ったのだが、私の配慮はあまり兄夫婦の夫婦仲に良い影響をもたらすことにはならなかったようだ。
私が家の事情をうかがい知る機会と言えば母の愚痴だけだ。
母は兄嫁さんについてたまに愚痴をこぼす。兄に言うと兄が不機嫌になるので私に言う。その大部分は「店をほったらかして、仕事をなんだと思っているのだ」という内容だ。