よるのむこうに

私は悟った。
今日はこのままお開きだ。

いつもそうなのだ。私達はどこにも行かない。
一緒にこの店でラーメンか、時には天津飯を食べるだけ。それ以上は何もないし何も起こり得ない。

女教師と自称パチプロの金髪男。
話など合うはずもないし、きっと二人のライフプランが重なり合うこともない。

今は一つのテーブルについていても、その場を離れればお互いに別の方向を見て別の方向に歩き出す私達だ。
私達は全く違う人間同士。
彼のあっさりとした行動からそれが感じられて、だからこそ余計に胸がきゅっと締め付けられた。


「ごちそうさま……」

レジで2240円を払う彼の手元を見ながら、私は蚊の泣くような声でそう言った。
彼は眉をあげて振り返った。

「じゃあな。また」

あっさりしたものだ。
腹を満たし、清算を終えた彼はもうこの店にも私にもさらりと別れを告げる。

「また」の言葉がひどく遠く響いた。
彼と私は違う。彼の世界から見れば私は異質で、私がこれから戻っていく自分の世界にもまた、彼は似合わないだろう。
私達は一瞬をすれ違い、または慣れていく。今はただお互いが珍しいだけ。


次に彼に会うのはきっと彼が素寒貧(すかんぴん)になったときだろう。

天馬はまたあのパチンコ屋の前で私を待っているだろう。
それは明日のことなのか、それとも来月なのか、はたまたもうそんな機会は訪れないのだろうか。それは天馬にも私にも分からない。
この男が何を考えているのか知りたい、この男の生きる世界を覗き込みたい。そんな好奇心で次を期待してみても、その先に何かがあるわけではない。

この男は猫のように気まぐれで、そしてしなやかだ。彼の野良のような野性のような生き方を私がまねても早々に泣きを見るのがわかっている。だから、覗くだけでいい。彼から漂う自由で保障のない生き方の香りを嗅ぐだけ。

あと少しだけ。
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