よるのむこうに
窓辺に並べた置いた鉢植えひとつひとつに水をやっていく。
最近は手のひらに乗るくらいの小さな多肉植物の鉢植えを買ってきては窓辺に並べるのが私の趣味になっている。数ある鉢植えの中で一番気に入っているのはグリーンネックレスだ。
すべての鉢植えに水をやってから、手慰みにグリーンネックレスの球状の葉に触れる。ころころとした丸い葉が私の指や手の甲を滑る様子は不思議でもあるし、可愛らしくもある。
いつでも実家の手助けを得られる近場でありながら、一人で暮らせるというアパートに移って半年。予算の関係で部屋は狭かったけれど、私の暮らしは案外快適だった。
新しい暮らしを始めた途端、私の東京での暮らしは少しずつ過去へと押し流され、兄のタオルを涙でぐしゃぐしゃにしたあの夜も、次第に遠い記憶となっていた。
人間、どれほど打ちのめされて目の前が真っ暗になっても意外となんとかなるものだ。
今も天馬への罪悪感と、嫌いあって別れたのではないという遣る瀬なさで胸が痛むこともあるけれど、はじめは耐え難く疼いたその痛みが次第に変質し、今は甘い痛みにさえ感じられる。
それは痛みには違いないけれど、今では切ない甘さを伴って私の記憶を彩っている。
私は時計を見上げた。
そろそろ時間だ。
私は部屋のすみに置かれたテレビをつけた。
もともとテレビを見る習慣はほとんどないのに、私は有料のスポーツ専門チャンネルを契約していた。
見ると言えばそればかりだ。