よるのむこうに
天馬がこのチームでプレイするようになってそろそろ一年半になる。
その間私は一度だってこのチームが負けるのを見たことがない。
天馬は自分自身を『バスケバカ』と称していたけれど、彼がチームにはいるなりこの結果だ。長いブランクがあったなんてとても信じられない。
たぶん、天馬はいわゆる天才と呼ばれる部類の人間なのだろう。
「なっちゃーん、あ、またバスケ見とう(見てる)」
太一が勝手に部屋に入ってきて私の見ている番組を横からのぞきこんだ。昨日の試合のダイジェストだ。
「太一、ちゃんとお母さんに出かけるって言うて来た?」
「んー……」
太一は窓辺から垂れ下がるグリーンネックレスの房に指をからめて遊び始める。
また親に何も言わずに出てきたな。
私はテレビを止めてバッグを肩にかけた。天馬の試合を見てから仕事にいこうと思ったけれど、先に甥を実家に送り届けたほうがよさそうだ。
私はグリーンネックレスの房を一本長く千切って太一に持たせると、彼の手首をひいて外に出た。
「なっちゃん、おれ四年生になったら学校でバスケ部に入ることにしたんや」
「そうなの、四年生になるのが楽しみやね。野球も続けるの?」
太一は地域の少年野球チームにも入っている。
「ううん、野球はもうやめる。バスケのほうがカッコイイ」
「かっこいい、かぁ……」
私は苦笑した。天馬はバスケを始める時、どんな思いで数あるスポーツの中からバスケを選んだのだろうか。聞いてみれば良かったと思うものの、今となってはそれもかなわない。