よるのむこうに
「じゃあ四年生になったらバスケットシューズがいるね」
「なっちゃん買ってよ。あれがいい、小林天馬選手と同じ、『スターラッシュ108』!!」
「げえー、あれ二万だよ?かっこいいけど一番高いやつやよ?」
そんなことを言いながらも、私はつい嬉しさに頬をほころばせてしまう。
天馬をイメージして作られたバスケットシューズは最近発売されたもので、私も自分はバスケットをしないのにこっそり買って押入れの奥に隠してある。
一度試しに部屋の中ではいてみたが、ごついバスケットシューズは予想通り、私には全く似合わなかった。
まるで間違えて他人の靴をはいているようだった。
おそらく私はこのバスケットシューズを二度と箱から出すことはないだろう。
「高くてもかっこいいもん」
甥は親に言えない頼みは決まって祖父母か私に訴える。勝手に買い与えていいものかという迷いが一瞬よぎるが、甥がバスケに興味を持ったという嬉しさでつい頷いてしまった。
「いいよ、じゃあ買ってあげる。お父さんかお母さんがいいって言ったらね。頑張って練習するんよ?」
「うん」
三分ほど太一と喋りながら歩いていくと、すぐに実家である『和菓子処 はな雪』が見えてくる。
店の前に兄嫁の姿が見えると、太一は駆け出した。
「かーちゃん!なっちゃんがバッシュ買ってくれるって!!」
現在第三子を妊娠している兄嫁さんは大きくなったおなかに手を当てて腰を伸ばした。
「ええ?
夏子ちゃん、悪いねえ。また太一がわがまま言ったんやない?」
「いいえ、バスケは私も好きやから、太一がバスケをやるって聞いて嬉しいんです」
「ああ、夏子ちゃんはあのイケメンの……なんていったっけ、」
兄嫁さんはおっとりとした仕草で顔を傾けた。
「小林天馬選手!」
太一が横から口を挟んだ。