よるのむこうに
私はこれからもこうやって生きていくのだ。
傍から見れば結婚もできず、実家の傍を離れることもできず、近所の学習塾で講師のバイトをして細々と生きている私はかわいそうにみえるかもしれない。
けれど、今の私には新たに探り当てた自分の人生はそんなに悪いものではないんじゃないかと思える。新聞で、テレビで。どこまでも上昇していく天馬のこれからをみつめていられるから。
やっぱり私は一人でいい。いや、一人がいいのだ。
叔母は寂しそうな私を見て同情してくれたのかもしれないが、もう見合いはしない。
棚から小さな牛乳パックをとり、私はレジに向かった。
以前は牛乳を飲めばよくおなかを壊していた私だけれど、実家に帰ってからは度々牛乳を飲んでいるのだ。
しつこく飲んでいるうちにいつしか体が牛乳に慣れて、もう牛乳を飲んでもおなかを壊すこともない。
これもきっと天馬の影響だな。
私は一人でニヤニヤしながらコンビニを出た。
さあ、仕事だ。
兄の話で少しざわついている気持ちを切り替えようと、私はぎゅっと拳を握り締めた。以前はそんなことをすればすぐに関節が疼いたものだけれど、今はそんなことも少なくなっている。最近の私は寝込むこともなくなり本当に調子がいい。
「よし、」
小さく気合を入れて塾の入っているビルに入っていこうとすると、不意に遠くから呼び止められた気がした。
生徒だろうか。
何の気なしに顔を上げる。そして、私は言葉を失った。
「あ、」