よるのむこうに
「ねえ、」
どうせすぐに会える。来週の私達はまた同じように口数少なく同じ店で同じものを食べている。たぶん。
わかりきったことなのに、私は彼を呼び止めていた。
「ビール、飲みたくない?
今日は、あ、暑いし」
あの店に貼ってあったビールの広告がいけないのだ。
買い置きのビールをたまたま冷蔵庫に入れておいたのがいけないのだ。
言葉の後半を口にしているときにはすでに勇気はくじけ、早くも後悔していた。
元々私は真面目で臆病なのだ。
こんな素行の悪そうな男に一人暮らしの自宅を知られて……いいはずがない。天馬だって何の面白みもない私の部屋でビールを飲んだって、きっとうまくもなんともない。
天馬は店の壁に目をやった。そこでは相変わらず美女がビール片手に微笑んでいる。
「ビールか」
彼は小さく頷いた。