よるのむこうに
天馬はデニムパンツのうしろポケットからくしゃくしゃの白い紙を取り出し、私に投げつけた。数枚の紙と三十枚近い一万円札が私の肩にあたり、ぱっとベッドの上に散らばった。
何度も何度も折りたたんでは開かれたのだろうか、そのA5サイズほどの紙は折り目の所がすりきれてところどころ破れていた。
「……こんな事、よく書けたもんだな……!俺はこんなもん、受け取らねえぞッ」
多くの女性がそうであるように、私もまた男性に怒鳴られると体がすくむ。
私は身がすくんで動けないまま、その紙に視線を落とした。
それは、手紙だった。
何も言わずに出て行く私がせめてもと思い、その時の自分の気持ちをそのまま書きとめたものだ。
そして、一緒に散らばったお金は天馬が新居を探す際に使って欲しいと思って、リビングに残したダンボールの中に同封したものだ。
『天馬へ、話もせずにいなくなってごめんなさい。』
そんな書き出しで始まる二年前の手紙は、改めて見ると恥ずかしくて、とても読めたものじゃなかった。
『どうか、私のことは忘れて欲しい。
私がこのまま天馬の傍にいたら、あなたが自分の人生を生きられない。
だから、私は天馬の目の前からいなくなることに決めました。
あなたがモデルを続けても、バスケをやるにしても、私はずっと応援しているから、もう二度と自棄(やけ)になったり人に暴力を振るったりしないで欲しい。』