よるのむこうに
「なにこれ。うめー」
天馬はレトルトのミートソースを卵で巻いただけの簡単なオムレツを頬張っている。合間にコンビニで買ったサラダや冷奴をつまむことも忘れない。
先ほどラーメンとから揚げを食べた後だというのに若い男の食欲は恐ろしい。
一人暮らしなのであまりえ食材の買い置きがないのだが、この食欲では早々食糧の備蓄が尽きる。
どうしたものか。弁当用の冷凍食品を放出するか。
悩んでいると、彼が口を開いた。
「お前、料理うまいな」
私が作って出したものはほぼレトルトだ。しかしレトルトだとか冷凍食品だとかそういうことを気にする性分ではなさそうだった。
「一人暮らしか。結構いいところに住んでるな」
「いいのかな。エレベーターがない分家賃が安いんだ。」
私の住んでいるマンションは五階建てなのにエレベーターがない。一階の住人はともかく、五階に住む私にとって、エレベーターがないのはなかなかの苦痛だったが彼は階段も苦にならないようだった。
「いいだろ普通に。風が通る」
天馬はそう言って気持ちよさそうに目を細めた。そんな表情を浮かべるときれいに切れ上がった目尻が涼しげだ。
また彼の美しさに気をとられ、私は慌てて窓に目をやった。
確かに風通しはいい。
私も目を閉じてリビングに通る涼しい風に目を閉じた。隣の住人がベランダで育てているジャスミンの香りが濃く香った。
「風があるのはいいよな」