よるのむこうに
好きだと言って欲しいと、一度も言えなかった。
愛していると、私も一度だって口にしなかった。
こんな月並みでありふれた言葉を、今頃になって。
「……あんたの気持ちが、愛かどうかなんて、……知るわけないでしょ……」
それは、天馬が自分自身の心に問うことだ。他の誰にも答えられない。
でも、彼はその気持ちを愛だと言う。
愛だというのだ。
涙が滝のように溢れだして、天馬の顔が見えない。
すすり上げても息を止めても、鼻水が止まらなかった。
そして私は31歳にもなって、甥姪さえやらないような大声を上げて泣いた。
本当は別れたくなかった。
ずっとずっと好きだった。初めて出会ったあの日から、私は天馬の何倍も天馬のことが好きだった。
私だって天馬がいなきゃ、何も頑張れない。
薬を手放せない体になって、それでも前を向いていられたのは天馬がテレビの向こう側で輝いていたからだ。
互いに遠く離れてはいるけれど、天馬がこの国のどこかにいると思うからこそいつ治るともわからない病気を抱えた体で、それでも生きていきたいと思えたのだ。
せっかく私が分別を持って身を引いたのに、天馬は私の決心も我慢も、すべてぶち壊しにして言いたい事を言う。
『愛してるって、言うんだろ』
たった一言、この言葉で私の気持ちは崩れた。
一緒に暮らしている時は一度も聞けなかったこの言葉に涙が止まらなかった。
我慢の糸が切れた私は子どものようにわあわあと泣きじゃくった。
「て、天馬っ……」