よるのむこうに
真顔でそんな事を言われると、恥ずかしくてとても天馬の顔を見ていられなくなる。
この男、自分がどんな顔をしてそんなことを言っているかわかっているのだろうか。そのきれいなアーモンドアイに、どれほどの欲望が滲んでいるか、わかっているのだろうか。
下品なほど直接的なその言葉と、美しい瞳に滲む欲望に頭がくらくらした。
気取ることを知らないむき出しの心と言葉。
人間というよりも美しい獣と呼んだほうがふさわしいその生き方。
好きだ。どうしようもないほど愛してる。天馬の肌の香りをかぐだけで、切ない涙がこみ上げてくる。
私はその思いを振り切るように彼から目をそらした。
「仕事、行かなきゃ」
「夏子……行かせられるかよ、俺はもうお前を信じないって言っただろ」
「でも、行かなきゃ」
私は床に投げ捨てられたショーツとストッキングの絡まりあったものを拾い上げると、天馬をにらんだ。
「……仕事、三時間で終わるから」
「え」
「……待ってて」
何を待っていて欲しいのか、とてもじゃないが口にできなかった。
顔が燃えるように熱くなって、恥ずかしさのあまり天馬の顔を正視することなどできない。
心臓がうるさいほど音を立てている。
私はそのまま逃げるようにこそこそとバスルームに逃げ込んだ。