よるのむこうに
「そんなっ……私なんか全然きれいじゃないし!」
「きれいというか、いい女って言ったつもりなんだけどね。まあ、君もきれいだよ。初めて会った日よりもずっときれいになった。
いずれ天馬が嫌になったら、今度は俺とデートしてね」
最後のほうは冗談めかした口調だった。たぶん、冗談だろう。
私は笑いながら顔を上げた。
「どうせ天馬のところにもどれって説得するくせに……」
彰久君はそれを否定せずににっこりと微笑んだ。
そのとき、天馬が飛行機のチケットを持って戻ってきた。
「おい、彰久テメー、夏子にさわんなって何度も言っただろ。見てたぞ」
「うん、それは何度も聞いたけどそれが何。
俺がお前の言うことを聞かなきゃならない理由は一つも無いんだけど?」
私と話すときの、少し甘えるような華やかな声音を引っ込め、天馬への返事は無愛想だ。
「夏子、勘違いすんじゃねーぞ。コイツは女には誰彼構わず声かけまくってんだからな」
私は曖昧な笑みを浮かべた。天馬は彰久君にあらゆる面でお世話になりっぱなしなのにどうしてこんなに態度がでかいんだろう。
「んじゃ、彰久。……俺らもう行くわ」
「ああ、もう帰ってくるなよ」