よるのむこうに
日本からアメリカに行く選手の中にはアメリカに行ったはいいものの、なかなか契約更新に繋がらず帰ってくる選手も少なくない。彰久君の「帰ってくるなよ」はそういう意味が含まれているのだろう。
天馬はうつむいてかすかに微笑むと、私の手を引いて「じゃあな」と小さく言った。
もう会うこともないかもしれないのにあっさりしたものだ。
「じゃあね、夏子ちゃん」
私は何度も振り返り、彰久君に手を振った。すらりとした彰久君の姿はたくさんの人が行きかう空港ロビーの真ん中で、ずっと私達を見送っていた。
私達の姿が見えなくなるまで、ずっと。