よるのむこうに
男性用の下着
シェーバー。
男性用の靴下
私のものじゃたぶん間に合わないので、ジャージかなにか。さすがに元彼氏が使っていたスウェットはまずい。
ああ、それに明日の朝のための食事。
それに、万一のときのためにゴム……はいるのだろうか。
使い残したお徳用ならばないではないけれど、一人暮らしの独身女性の家にそんなものがあったら、男性は複雑なものだろうか。
いやいやいや!こんなことで節約してどうする。どうせコンビニに行くのだったら買えばいい。
もし彼が泊まると言ったらダッシュで……ダッシュでコンビにまで行くしかないな。
私の頭の中は狂ったようにお泊りの段取りでいっぱいになった。
「……ふうん、じゃあ泊まるけど、ダンナとか彼氏とかはいいのかよ」
「………………いない。ダンナも彼氏も…………」
そんな人がいたら毎週末自称パチプロとラーメン屋なんか行けない。この男は一体私をどんな人間だと思っているんだ。
軽く抗議しておこうと顔を上げると、予想外に彼の顔が近くて驚いた。
長めの前髪の間から大きな瞳がのぞいていて、私の首なんか片手でひねることができそうな大きな手が私のうなじをつかんでいた。
次の瞬間、彼は口を開いて私の唇に自身のそれを重ねた。
噛みつかれたかと一瞬身構えてしまうような荒々しいくちづけに、私は震えた。怖かったのではない。何か私の知らない世界が開けていく、そんな予感に歓喜したのだ。