よるのむこうに
「せっかくツキが回ってきたところだったのによ……」
彼はほとんど白に近い金色に染めた髪を掻いた。
私は6本の牛乳と味噌と野菜と卵と大量の菓子パンが入った袋を両手に提げたまま、天馬をにらんだ。
「今日は特売だからスーパーの前で待ち合わせねってあれほど!言ったのに!電話も!したのに!!」
「しょーがねえだろ、こっちも仕事なんだよ」
パチプロはパチンコをするのが仕事、なのだと思う。(たぶん。)
だが天馬、あんたはパチンコで生計を立てているパチプロの人々とは違う。
だってあんたは全くパチンコで生計を立てられていないからね。店側から見たらただのいいお客さんだからね。その辺り全く自覚はないのだろうか。
そろそろうっすらとは気付いていてもよさそうなものだが。
「仕事ってあんた……」
私は呆れ半分で『天馬はパチプロではない、ただの客』というその事実を指摘しようと思った。
しかし、これを言っていいのだろうか。
天馬は若い。まだ修行中なのだ。努力している方向はアレだが、人が一生懸命やっていることを否定してはいかん。私自身もかつて教師になりたてのころは失敗ばかりだったじゃないか。
自分の中の理性が出かかった文句を抑えようとする。が、思いなおした。
今回ばかりは言わせて貰う!パチンコより荷物もちをしろ、と。
もー別れることになっても構わん、言いたいことは言わせて貰おう!
私は意を決して顔を上げた。
見た目がチンピラで中身も完全にチンピラで、さらに二メートル近い長身の天馬にむかって、チビで地味な女教師である私が文句を言うのはなかなか根性のいることだが、しかし言わねばなるまい。
私はお前の奴隷ではない。