よるのむこうに
「なんだよ」
「負けたんでしょ、今日。ラーメンも厳しいくらい」
「……次は勝つ」
「馬鹿だねぇ」
「うるせぇ」
私は笑いながら天馬を部屋の中に招き入れた。
いつでもゴハンをたかりにくればいい。幸いというべきか不幸にしてというべきか、私は一人だ。部屋に誰を招きいれようが誰も何も言わない。
私が天馬を餌付けして、そのうちに天馬は何のこだわりもなく私の部屋を訪れるようになった。
はじめはパチンコに負けた日にごはんを食べに来ていたのが、負けなくとも来るようになり、そのうちに私の部屋に住み始めた。そのころにはもう彼の携帯はあまり鳴らなくなっていた。
あえてこう呼ばせていただくが、彼の前の「飼い主」はきっと、このころに彼を諦めたのだろうと思う。
たぶん、天馬は私の部屋からだと商店街のパチンコ屋がみえること、あとはレトルトミートソースの入ったオムレツに惹かれて住居を変えた。そう、恋人を変えたのではなく、住居を変えたのだ。