よるのむこうに


久しぶりに新しい服を買った。
私は紙袋を胸に抱きしめて一人でニヤニヤと笑った。

服を買うのは本当に久しぶりだ。
私があまり服を買わないのは扶養家族(笑)のせいで台所事情が厳しいというのも少しはあるが、それだけではない。

天馬が我が家に泊まりにくるようになった時、彼はほぼ手ぶらだった。
私達の馴れ初めからわかるように、天馬はここで暮らすという決断をしてこの部屋に越してきたのではなく、ふらりとやってきては泊まっていく、そのうち帰るのがめんどくさくなったのか、帰る場所がなくなったのかその辺の事情はよくわからないが、彼は私の部屋に居ついてしまった。

そのままでは天馬は着の身着のままで私の家にいるということになる。そんな彼の暮らしが気になった私は誰に言われたわけでもないのに勝手に彼のジャージを用意し、寒くなれば毛布を購入し、暑くなればタオルケットを用意する。最終的にはほとんど使っていなかった納戸に彼専用のハンガーラックを置いてみたりして、彼の服及び彼の居場所を整えた。

今日の洋服購入も、私が服を買う「ついで」につい彼の服を購入してしまったのだ。

天馬はモデルである。スタイルも顔もなかなかのものだ。そうなるとチビでお世辞にも美人とはいえない私の服を選ぶよりも、天馬の服を選んでいるほうがはるかに楽しくなってくる。さんざんああでもないこうでもないと悩んだ挙句にとうとう彼に着せてみたい服を五着も購入してしまった。自分の服は仕事用の白いシャツブラウスと下着類しか買わなかったというのに。

けれどこれはあくまで私の自己満足だ。きっと天馬は私の買ってきた服をとくに喜びはしないだろう。

天馬は服に対して興味がない。
服を選ぶ時、彼が重視するのは快適かどうかであって似合うかどうか、オシャレかどうかなどは全く頭にない。
私が買ってきた服も結局似合うものよりも快適なものを選んで身につけ、コーディネートなど二の次だ。
たとえ高価な服であっても、ハンガーラックにかかりっぱなしでついぞ彼がそれを身につけているのを見たことがない、ということもよくあることだ。
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