よるのむこうに
「よかった。結構待ってたんだ。天馬は連絡がつかないし」
あいつ……。またパチンコか。
よくあることだ。天馬はパチンコ店にいる間は連絡がつかない。店内の音で着信音がかき消されてしまうというのもあるけれど、連絡がつかなくなる大半の理由はじゃまされたくないというものすごく自分勝手な理由があると思う。絶対。
「天馬のお友達ですか」
彼は苦笑して頷いた。
「うん。天馬がどう思ってるかは知らないけど高校のときからの友達。彰久(あきひさ)って呼んで。よろしく」
天馬は現在24歳なので、高校のときからというと少なくとも七年くらいの付き合いということになる。
あいつ……友達がいたんだ。
私は胸が熱くなるような感動を覚えた。この二年間、天馬の口から友達らしき人物の話を聞いた事がなかったので、私は勝手に彼は「友達がいない」のだと判断してずっとその件には触れずにきた。
しかし、友達は存在したのだ。
「いつも天馬がお世話になってます!私は小森夏子と申します!」
私はかなり緊張して彼に挨拶をした。彼は華やかな美貌に甘い笑みを浮かべた。
「ふうん、夏子ちゃんていうんだ、かわいい名前だね」
夏子、ちゃん。
かわいい。
私は動きを止めた。目の前の男は二十代なかばか、見方によってはもっと若いような気もする。
一方私は見た目も中身も共に立派な29歳、白髪もちらほら見つかり始める年齢だ。
たぶん彼も自分が私よりもかなり年下だということはわかっているだろうに、同級生か年下レベルの娘さん扱い。この年齢差の開きでそういう態度は一般的には無礼とされる。