よるのむこうに
「あのねえ、パチンコでいくら儲かっているのか知らないけど、あんたって要するに、……ねえちょっと聞いてるの?」
天馬は景品の袋の中を漁っていたかと思うと、私の顔の前に金色のチェーンとパールを連ねたアクセサリーのようなものを突き出した。
「これやるわ」
「えっ」
その瞬間、私のおなかの中にたまりにたまった怒りと罵倒がさわやかなグリーンノートの風となってどこかに吹き抜けていった。
あまりにも突然のことで私は思考がついてゆかず、反応できない。
その私の態度に、天馬は肩をすくめた。
「いらねーならそこで交換してくるけど」
「い、いるっ!」
私は牛乳を詰め込んだ袋を道路に落として彼の手からそのアクセサリーをひったくった。
天馬は無表情のまま私が落としたスーパーの袋を軽々と持ち上げた。何を考えているのかはその表情からは推し量れないが、とりあえずイケメンである。
「そっちも寄越せ」
天馬は菓子パンをつめた袋にも手を伸ばした。
「え、こっちはいいよ。両手、ふさがってるでしょ」
「うっせーな。ごちゃごちゃ言ってねえで寄越せ」
天馬は牛乳を持ったその手でさらに残る荷物を取り上げると、悠々と歩き出した。
置いていかれた形になった私は、あらためて手の中で鈍い輝きを放っているアクセサリーを見つめた。