よるのむこうに
「夏子ちゃん、その紙袋MOMOuniverseのやつだよね。見てもいい?」
「あ、はい」
紙袋を渡すと彼はさっそく袋の中から私の買ってきたスカートやデニムを広げた。
「ここってメンズラインも出てるよね。俺も持ってるよ、サイズ展開が豊富だから使いやすいよね」
「そうですね!天馬は大きいから、」
「夏子ちゃん」
「はい」
「敬語やめない?なんか他人みたい」
初対面です。他人です。
そう言いたかったけれど、彼のどこか甘さを含んだ人懐こい目で見つめられるとそんなことは言えなくなる。
私の生徒を見ていて日々思うことだが、今の若い子はなかなか心を開いてくれない子が多い。けれど、この彰久という子はあまり心の壁がないタイプみたいだ。
「ふふ、ああ。これを買いたかったわけね」
彼は紙袋から長いデニムとシャツを取り出して微笑んだ。
「いいんじゃない、似合うと思うよ。天馬に。
こっちの服ともよくつりあうし。デート用?」
一瞬でそこまで見透かされてしまい、恥ずかしくなった私はついうつむいてしまった。
「ホントは天馬が買って夏子ちゃんにプレゼントするものなのにね。あいつモデルの癖に服とか興味ないから。俺から言っておくね」
「い、いえ。そんな。天馬があんまり売れてないのは知ってるから……」
それを聞いて彰久は眉をあげた。
「売れてないんじゃなくてやる気がないだけだよ。オーディションを受けろっていくら言っても受けないし」
「天馬の仕事のこと……知ってるんですか」
「知っているも何も、あいつの所属事務所、俺の会社なんだけど」