よるのむこうに
「山口くんだけでもどうぞ」
袋の中からペットボトルを出すと山口君は浅く微笑んでそれを受け取った。私も一本とってボトルの蓋を開けようとしたが、冷えたペットボトルの蓋はなかなか開かない。力を入れすぎたのか、指が痛くなってきた。
「先生、俺がやろうか」
山口くんが見かねて私のてからボトルをとっていとも簡単に開けてくれた。
「……ありがと」
「このくらい、なんでもないよ」
「そっかぁ。ありがとうね。
あ、山口くんって進路はもう決まってるの」
山口くんはもう三年生だ。今はまだ一学期だけれどみんなもうだいたいの進路は決めている時期だった。
私は山口くんの担任ではないので彼の進路について話し合う必要はなかったけれど、尋ねてみた。
「はっきりとは決まってないけど、いちおう進学先は絞ってる。卒業後も剣道を続けたいからさ。剣道部の強い大学を狙ってる」
「ああ、剣道」
部活動に熱中している生徒の場合、進路を決める際に部活動を考慮に入れる例は珍しくない。
部活動でかなりの成績を残している生徒の場合は大学のほうから入学して欲しいといわれることもある。
山口くんも個人ではそれなりの成績を残してきたが、全国レベルで考えると目立って優秀だというわけではなかった。それでも進学先を考える際に剣道が大事な条件になってくるのだ。
私は学生時代、英語研究部でほそぼそと活動しているだけだったので部活動中心に進路を決める彼らの気持ちはあまりよくわからない。もちろん本人の希望なので応援はするけれど。
「……K大学なら家からも通えるし、K大学の剣道部は強豪なので、いいかなって」
私は頷いた。
山口くんの成績で狙える範囲内できちんと考えている。
私にとっての部活動は仲間とわいわいやれていればそれでいいという程度のものだったけれど、山口君にとっては進路を左右する大事な要素なのだ。
バスケをやっていたという天馬にとってはどうだったのだろう。
ふとそんなことを考えてしまい、私は小さく頭を振った。