よるのむこうに
それは、一見ブレスレットのように見えたのだが、よく見るとパールを連ねたバッグチャームだった。
パチンコの景品なので、よくても一万円にはならない品物だ。安く作られたものならば千円くらいだろう。実際、それは本物の真珠ではなくてコットンパールとダイヤによく似たビーズを組み合わせてつくられている。
けれど、私は自分の頬が緩むのを抑えることができなかった。
天馬が今まで私にくれたものといえばそのほとんどが食べかけの菓子パンとか半分飲んでしまった発泡酒、あるいは駄菓子の類だった。
その天馬が、景品とはいえ私にチャームをくれたのだ。しかも、ちゃんと女性向けの商品を選んで、くれたのだ!
普通の女性だったら千円のチャームは喜ばないかもしれない。
でも情けないことだが、食べかけの菓子パンをもらうことに慣れた私にとってはそれがものすごく心のこもったプレゼントに見えてしまったのだ。
今まで付き合った人は天馬だけじゃない。何人かいた彼氏はみんなその年代に相応しい何かをくれていたし、私も彼らにそうしたものを贈っていた。少なくとも食べかけのパンをくれた人はいなかった。千円のチャームをくれた人もいなかった。
しかしこの二年ですっかり天馬慣れしてしまった私は、千円のチャームで脳内の変なスイッチを押されてしまったかのように浮かれている。
まるで小学生の女の子みたいだ。
「おい、早く来いよ」
天馬は小雨の中、傘もささずにぶらぶらと歩いてゆく。私は慌ててその大きな背中を追いかけた。
「あの、天馬。これ、ありがと……。すっごく、嬉しい」
私達は普段、甘い言葉を囁きあうようなカップルではない。下手をしたらその辺の姉弟よりもあっさりとした関係なので、これだけの言葉を発するのにも異常な羞恥を伴う。おそらく、私の顔は真っ赤だっただろう。
「おう」
天馬はだるそうな顔をこちらに向けることもなく、私の言葉を聞き流した。