よるのむこうに


買ったお米の袋を持ち上げようとすると、ふんぐ、と変な声が漏れた。

私の肩からさがっているエコバッグには一リットルの牛乳が4本、卵のパックが3つ、菓子パンが十個入っている。

天馬といっしょに暮らしていて一番困るのは彼の食品消費量が常人のそれをはるかに上回るという事だ。
彼は比較的安価なものを大量消費するので、食費という面はそれほど迷惑をこうむっているということはないけれど、しかし買い物は大変だ。
彼が買い物を手伝ってくれるときはいいけれど、今日のように仕事帰りに値引きされた牛乳や米を見つけてしまった時は本当に困る。

レジ係の店員さんが、先ほどからチラチラと私を見ている。私もこれは調子に乗って買いすぎたとちょっと後悔している。

なんとかエコバッグがかかっているほうとは逆の肩に米の袋を乗せて店を出た時、すでに私は歩き方がおかしくなっていた。ローヒールとはいえパンプスにジャケットの私が米と大きなエコバッグを持ってよろよろ歩く姿はかなり危なっかしかった。

休み休み自宅マンションに向かって歩いていると、子どものわっという歓声が聞こえた。

新しい住宅街が立ち並ぶ通りの向こうから聞こえるその声に惹かれるようにしてちょっと角を曲がると、公園があった。
私がこの町に引っ越してきて三年以上たつのに、自宅近くにこんな公園があるのは知らなかった。ちょっとベンチで荷物を持ち直そうと公園に足を向けたその時、また子どもの歓声が上がった。

あまり手入れの良くないツツジの木に囲まれた公園に、小学校高学年くらいの子から高校生くらいの子までが遊具ではなく金網を張った広場のほうに集まっている。身軽な子は金網に登ってまで広場の中を覗き込んでいる。

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