よるのむこうに
私は天馬をにらんだ。
「ちょっと、賭け事なんかしないでよ」
「ちげーよ、ボールを取り返してやっただけ。ところでお前、何それ」
彼は私の脇に置きっぱなしのエコバッグを勝手に開けた。そして牛乳を見つけると「丁度いいじゃん」と呟いていきなりパックをあけて飲み干した。
「えっ、ちょっと。いますぐ飲むの?せっかくここまで運んできたのに」
「飲むために買ったんだろ。軽くなってよかったな」
天馬はそう言うと男たちから巻き上げた数千円をデニムのポケットにねじ込んでそのままパチンコに……行くかと思ったのだが米袋を小脇に抱えてエコバッグを肩にかけた。
「オラ帰るぞ」
ここまで運ぶだけでも汗だくになってしまった荷物を軽々と運ぶその姿にちょっと……惚れ直してしまった。本当に私は簡単な女だ。
「あ、ありがと」
「ん?ああ」
並んで歩きはじめるとエコバッグをかけているほうの天馬の手が私の手を包み込む。
こんな事はめったにないことだ。天馬は上機嫌なのだろう。
少し汗をかいた温かく骨ばった手の感触。それを感じているといつか破綻するこの関係が、案外一生ものの関係になるんじゃないか。そんな儚い希望を胸に思い描いてしまう。
天馬がいつまでもいつまでも、ずっと私の傍にいてくれるんじゃないかと、ありえないことを考えてしまう。
天馬がずっと私の傍を離れないということはすなわち、天馬がずっとこのままでいることを意味しているのに、私は自分勝手な女だ。
天馬の人生を考えれば、彼はできるだけ早くこの関係を卒業した方がいいに決まっている。