よるのむこうに
「おい、早く行こうぜ。腹減った」
けれど、天馬の顔を見ていると、私は自分のがっかりした気持ちなど次第にどうでもよくなってくるのだ。
天馬の中には何かが眠っている。揺り動かして起こせば良くも悪くも周囲を圧倒するような何か、大きなエネルギーが眠っている。
それは思い込みなのかもしれない。身内の欲目ゆえにそう思い込もうとしているのかもしれない。けれど、私はそれを信じている。
今は彼の中で眠っているその何かが、いつか目を覚まして歩き出す。
私はその何かが目覚める瞬間を心待ちにしつつ、怖れている。
それは彼の羽ばたく日になるだろうけれど、同時に私が彼にとって不要になる日をも意味しているからだ。
第三者の目から見れば、それは一日だって早いほうがいい。
私がこうして天馬を受け入れているから彼が目覚めない。
私だって本当はわかっているのだ。