よるのむこうに
外に出ると濃い雨の湿った匂いが漂っていた。
もう六月も終わりだ。
梔子(くちなし)の花が甘い香りを放って裏門に向かって長くのびている。
今までならばなんとも思わなかったその梔子の道がひどく長く感じられた。
私は自分の膝を見下ろした。
ここのところ仕事が忙しく、疲れを溜めすぎたのかもしれない。少し浮腫んで見える私の膝は今朝になって突然痛み出した。
前回病院に行った際に簡単な施術を経験していた私は、また水を抜いてもらおうと考えていつもの仕事を翌日に回して学校を出た。
まったく面倒なことだ。前回膝の水を抜いてもらったときはこんなに早くまた膝が腫れてくるとは思いもしなかった。このペースでたびたび病院に行かなければいけないのだとしたら随分と仕事に支障が出る。ステロイドをもっと使ってもらったらもう少し通院の間隔をあけられるだろうか。
ああ、面倒だ。
天気が良くないこともあって、私はかなり沈んだ気持ちになっていた。
「検査の結果、残念ですがあなたは関節リウマチにかかっています。すぐに治療をはじめたほうがいいでしょう。私の経験からいって、リウマチの場合は早期の治療がその後のQOL(Quality of life)を大きく左右します」
医師はそう言って私に小さな冊子を手渡した。冊子には微笑む女性のイラストと『リウマチってどんな病気?~治療と生活の注意点~』というタイトルが書かれていた。
「リウマチ、なんですか……」
「はい。この血液検査の結果を見てくださるとわかりやすいのですが、まず、炎症反応CRPですが、これは正常な血液にはごく微量にしか含まれません。健康な人ならば0,5以下。黄色いマークをしてある部分が健康な人の平均値ですが、あなたの場合……検査で分かるMAXの値を超えているので、正確な数値が計測できませんでした。おそらく、10は越えているかと」
医師が指先で示した検査数値を見て私はごくりと唾を飲み下した。
真っ赤なペンでぐるりと囲まれた私の数値は正常とされる人の二十倍、いやそれ以上なのか。そのあまりにも大きすぎる数値に何かの間違いではないかと目を疑った。