よるのむこうに
「リ、リウマチって……治るんですか」
医師は一瞬私の目を見た。
その目に浮かんだ複雑な感情を、私は見てしまった。すぐに医師の傍に立っている看護師の顔を見上げると、彼女もにこやかではあるものの目だけに緊張が走っていた。
それだけで、答えがわかってしまった。
治らないのだ。たぶん。
「治ります」
医師は落ち着いた声で答えた。
「リウマチは、昔は不治の病とされてきましたが、今ではいい薬があります。
とりあえず今回はステロイドとまた水を抜いて……それからリウマトレックスを出しておきますので少しずつ薬に体を慣らして様子を見ましょう。リウマトレックスだけで症状が安定する人もいますから今から心配することはありません。
ただ、あなたの場合……炎症が強く出ていますので関節の破壊がほかのリウマチ患者さんよりも早いだろうということはいえます。今が手遅れだというのではありませんが、できるだけ早く治療を始めましょう」
「そう、ですか」
前回その可能性を指摘されていたにもかかわらず、私は自分がリウマチであるなどとは考えもしなかった。
医師があまりにも簡単に注射一本で私の膝の痛みを取り去ってしまったことのせいもある。でもそれ以前に、私は自分が一度も大病をしたことがないということ、それに32歳という自分の年齢から病気になどなるはずないと思い込んでいた節がある。
同じ年代の友人たちを見ても誰も病気になどなっていない。風邪、インフルエンザ、軽いアレルギーなどで病院の世話になる人は居ても、慢性疾患など聞いたこともなかった。