よるのむこうに


期末テストの結果を受け取った生徒たちは席についてもまだまだざわついている。

今回のテストは少し難しかったかな。
だいたいこのくらい、と設定している平均点が今回は少し低めだった。
教師になって何年もたつけれど、この平均点の調整はなかなかうまくいかない。生徒のテストの機会は教師のテストの機会でもあるというわけだ。

私は教卓に体重を預けたまま出席簿で教卓をコンコン、と叩いた。
以前は自分の手でやっていたこの何気ない仕草だけれど、リウマチの影響か手で物をたたくと例え軽く叩いた場合でも疼くように関節が痛む。痛みの悪化を恐れて私は当たり前の動作でも無意識に避けるようになっていた。
医師の話では薬が馴染んでくれば普通に暮らすことも不可能ではないというけれど、まだ通院が数回目の私はその段階になかった。

「さて、みなさんテスト勉強お疲れ様でした。
テストの結果が悪かった人も良かった人も、まだ一学期なので夏休みの過ごし方しだいで成績はかわります。あー……遊ぶな、勉強だけしてろ、と……言いたくなる人もいますが先生は美人で優しい先生なのでそれはあえて言いません。先生も夏休みはそこそこダラダラする予定です。暑い時期に頑張りすぎると健康にもよろしくない」

そこで生徒がどっと笑った。
私は自分の顔を美人だと思ったことは一度もないが……あえて自分を美人で優しい、という。ちょっとつっこみどころのある先生のほうが完璧な先生よりも親しみやすく生徒も心を開いてくれると思うからだ。
ここは小学校ではないので高校教師が生徒と極端に親しくなる必要はないけれど、生徒と教師の間のゆるく好意的な関係は一学期の間に築いておくべきだ。そういう点においては一学期の私はまあまあ及第点だと自分で思っている。

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