よるのむこうに
私はちょっといたずらっぽい表情をつくって話を続けた。
「なので、先生も夏休みを楽しみますのでみんなも羽目をはずし過ぎないように勉強も頑張ってください。
新学期にまたすぐ小テストをする予定です。テスト範囲は一学期で覚えたことばかりなのでとくに難しいとは思いません。……早坂くん藤野くん、あからさまにいやな顔をしない。先生だって仕事でやってんの。……とにかく、一学期に覚えたことだけは忘れないで。テスト結果を見てブラッシュアップの必要がある子はぜひぜひ苦手分野の克服を目指してください。
じゃ、そういうことで一学期の授業は終わります」
起立、と生徒の間から声が上がり、生徒が一斉に立ち上がり、軽く私に頭を下げる。
いつもの私ならそのまま教室を出て行くのだが、その日はその一歩が踏み出せなかった。
痛い。
膝関節の間に鉄の薄い板でも挟まっているかのように、痛い。少しでも動けばまた膝をついてしまうであろうことが自分でもわかった。
そのまま何か出席簿を調べるようなふりをして、私はその場にとどまり続けた。早く痛みの波が去ってくれることを祈りながら。教卓の後ろに隠れた私の両足が震えていた。
パンプスじゃなくて運動靴で出勤すればよかった。
駅で、エスカレーターじゃなくてエレベーターを使えばよかったのかも。
昨日、少し疲れすぎたのかな。もう少し早く寝ればよかった。
たくさんの小さな後悔が大きな波になってどっと私の背中に乗っかってきた。