よるのむこうに

生徒たちのざわめきに注意を向けて痛みから気を散らしながら堪えていると、山口君が私の隣に立った。

「先生、大丈夫。……足、痛いの」

その小さなささやきにはっとして顔を上げると、彼は困惑したような顔をしていた。まるで彼自身が困難に直面しているかのような表情だった。
心配してくれる彼の気遣いが嬉しいと同時に、彼に今な顔をさせてしまった自分が情けなくて、胸が痛くなった。

「大丈夫、ちょっと……。すぐに薬が効いてくると思うから」
「先生、俺の母親、さ……。先生と似てるんだ。体型とか、ちょっと黄色っぽい肌の色とか……。
俺の母親も最初は貧血だって言ってたんだけど、自己免疫疾患ってヤツでさ。このあいだ先生が立てなかった時、母親と同じだって思ったんだ。
……ごめん。ごめんなさい」
「な、何?山口くん、どうしたの?」

彼は少し逡巡してから、ぽつりぽつりと話し始めた。

「……先生が俺の母親に似てるから、剣道部の顧問をお願いしようと思ったんだ。母親と同じで、頼んだら多少無理してでもいいよって……言ってくれるって、なんとなくそんな感じがして、運動部の顧問が大変だってわかってて、頼んだ……」

初めて聞くその話に、私は眉を上げた。

山口君が「剣道部を作りたい」といって私を顧問にという話を持ってきた時、一瞬、剣道の経験もなければ山口くんと特に親しいわけでもない私になぜこの話がきたのだろうと思ったことはあった。
ほかに顧問をやれそうな先生が少なかったから私に話が来たのだろう、単純にそう結論付けて深く考えてみるということはしなかった。

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