よるのむこうに
「山口くん、剣道部の顧問の件と私の足のことは関係ないよ?
部活っていっても外部から先生をお招きして指導してもらって、私はほとんど雑用しかしてないわけだし……そもそも、それも教師の仕事のうちなんだよ」
「……そうだね、ごめん。わけわかんないこと言って、ごめん」
うつむきかげんで話をする彼の瞳がわずかに潤んでいるような気がした。
「いや、わけわかんないなんて思ってない。山口くんの言いたいことは理解したつもり。
だけど、本当に……違うからね?
あなたのお母さんのことと私のことは別の話だし、剣道部と私の足のことも無関係だから。誤解しないでね?」
まさか私の体調不良が山口くんをこれほど動揺させるとは思わず、私はひどく狼狽してしまった。あまりにも想定外の方向からの謝罪だったので私の狼狽はしっかりと顔に出ていたと思う。
「うん、ありがとう、先生。
無理しないで。肩、貸すよ」
「大丈夫、そこまで痛いわけじゃないんだ……」
私は笑顔を作って教卓のそばを離れた。
痛くても、少なくとも教室では痛い顔など出来ない。教師の顔色一つで山口くんのように心が揺り動かされる生徒もいるのだ。