よるのむこうに
彼は私のことを愛してるってわけじゃない。
ただ、なんとなく縁ができて、なんとなく一緒にいるだけ。
ここで別れたら、私はたぶんもう彼に会うことはないだろう。
漠然といつかは来るであろうと考えていた彼との別れの日が、こんな形で突然やってくるとは考えていなかった。
時には腹も立つし、喧嘩もするけれど、それでも私にとって天馬は……いるのが当たり前の人になっていた。そうは思うまいと何度自分に言い聞かせても、二年の月日は私の心と体に染み付いているのだ。
「……あ、お母さん?……んー……。いやぁ、そうやないけど。今、いい?」
自分から母に電話をするのは久しぶりだった。
いつも母のほうから電話をかけてきて、最後は私の結婚について母から一方的に責められて喧嘩になることの繰り返し。いつのまにか私は説教いやさに実家にはあまり連絡をしなくなっていたからだ。
私から電話がかかってきたことで、母の声は少し浮き立っていた。
こんなに喜んでくれるのならもっと頻繁に電話をすればよかった。
まだちゃんと病気のこと、仕事のことを話していないのに、すでに感傷的な気持ちになってしまう。