よるのむこうに
私は29歳、天馬は24歳。
私は公立高校の教師、天馬は自称パチプロのモデル崩れ。
私は先のことをくよくよ考える小心者で、天馬は……たぶん何も考えていないし、喧嘩上等で気が強いタイプ。
何もかも違う私達は普通ならこうして並んで歩くこともなければ、一緒に暮らすこともなかっただろう。
けれど、私達は出会い、人生の決して短くはない二年という歳月を一緒に暮らしている。
たぶん、一生一緒にいるわけじゃないと思う。
でも、不思議と私達は別れない。いや、そもそも付き合っているのだろうか、私達は……?
私は天馬に付き合って欲しいといった覚えはないし、天馬も私のことを好きだとか嫌いだとか言ったことはない。
しかし改めて天馬にそれを聞くのは怖い。
もし「セ○レに決まってんだろ」なんて答えが返ってきたら……?
公立高校の女教師がチンピラのセ○レだなんて……なんだかいかがわしい小説の設定みたいじゃないの。どろどろした愛欲の日々ってイメージじゃないの!
実際の私達は半野良猫とえさやり当番の関係に近いっていうのに、勝手にそんな誤解をされては困る。私は一応嫁入り前の娘さんであり、教育者なのだ。保護者や未来の旦那様に知られて困るようなゴシップは非常に、非常に、困るのだ。
「おい」
一人で苦悩していると、天馬が私の足を膝で軽く蹴った。
「え、あっ、何?」
「何じゃねーよ。こっちは両手がふさがってるんだ。鍵開けろ」
不機嫌にそう言われ、私は慌てて周りを見回した。
いつの間にか私はマンションの自室前まできていたらしい。
「あ、ああそう、鍵、鍵ね」
天馬は明らかに様子のおかしい私を訝しげに見たが、私はうつむいて彼と目を合わせなかった。
セフレだったらどうしよう……。
こんなこと、天馬本人に問い質(ただ)すわけにもいかない。
私は一人で青ざめた。