よるのむこうに
7、「what am I to you?」



人影もまばらな平日昼間の改札をぬけると、彰久君の姿がぱっと目に付いた。

社長といいながらも、彼は世間の社長のイメージからかけ離れた格好をしている。今日の彼は柔らかな麻素材のシャツに黒っぽいデニムサルエルパンツ、シルバーチェーンを組み合わせたベルトをゆるく巻いていた。
はじめて知り合ったあの日からそれほど長く会わなかったわけでもないのに、彼の髪の色はほとんど白に近い金色に染められている。

彼がモデル事務所の社長である傍らモデル業もこなすからだろうか。制服姿の女子高生が数人、彼の周りを取り囲んでいる。
声をかけていいのか悪いのか判断がつかないまま、私は彼の姿をしばらく見守った。
やがて女子高生が手を振りながら離れていくと、私は目立たないように彼の携帯に電話を入れた。


「あ、夏子ちゃん?ついたよ。そっちは?迎えに行こうか」
「すぐ後ろにいるんだけど……大丈夫?近くにいって」

彼は笑いながら私を振り返った。

「何を気にしてるの。俺が夏子ちゃんを呼び出したのに」

彼は携帯を耳に当てたまま私のほうに向かって歩いてくると、さっと私の手をとった。

「つかまえた」

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